Free from Illusions / 明鏡止水

A River Runs Through It (1976)

邦題: マクリーンの川

 

今日は一冊の本と、その著者について

ご紹介しようと思っています

 

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シカゴ大学教授だったノーマン・マクリーン

は、70歳の定年退官後に物語を書き始め、

74歳で処女作となる一冊の本を出版しました

 

何社もの大手出版社に門前払いを受けながら

ようやく元の所属先だったシカゴ大学から

出版化され、ピューリッツア賞の候補になり

全米のベストセラーにもなりました

 

この作品は事実上の自叙伝と言われています

 

Norman Maclean (1902-1990 )

 

著者である兄ノーマンによって書かれた、

夭折したポールを中心とした物語です

 

ここに40年間、心の中にわだかまりとして

残っていた三歳下の弟への愛情と憧憬、そして

複雑な気持ちが透明感をもって描かれています

 

 フライフィッシングを通した自然と

身の回り人間との関わりの中で、そこ

起きた様々な出来事が描かれていきます

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Maclean Family  

 Father and Mother
Norman (left), and Paul (Right, 1906-1938)

  

著者は作品の中で、過去に自分の家族

の間で起きていたことについて一定の距離を

保ちながら冷静に見つめていきます

 

若い頃に兄弟の間にあった理解しあえない溝は

歳を重ねると共に川の流れのように洗い流され

ていきマクリーン家の幸福も不幸も追憶として

ひとつに調和し、溶け合って展開されていく

 

 

 


兄は「自分はなぜ生まれてきたのか」について

たびたび宗教を絡めて、自問自答をしています

 

その問いの背景には弟のポールの死について

知りたい何かがあった、、

 

それは弟の直接的な死因ではなく、

 

なぜ弟は死ぬ運命にあったのか?

 

という気持ちがあったからのように感じます

 

 

Norman Maclean

 


そしてこれほど長い間語らなかった理由の

ひとつは、ノーマン自身が繊細な感性の人間で

両親や周囲の気持ちにとても敏感だったこと

 

いわゆる模範的な良い人間だった

 

また非常悲しい事件だったため、周囲の反応

恐れて語ること自体を控えたのではないか

と私は推測しています

 

 

けれども著者は過去の美しかった頃の回想や

の頃ついて穏やかに話したい気持ちがあった

 

そういう本心を隠して生きてきたが

晩年に入り、周りを気にしない環境になった

 

 

Norman Maclean

 


また、弟の死の理由について
何かしら

答えが見えてきたのかもしれません

 

兄は、自由で才能ある弟に愛情と憧れがあった

 

同時に、その弟の向こうみずな生き方が

いつか破滅を迎えることもわかっていた

 

 警察から連絡が来たとき、弟が亡くなった

知らせ驚かなかったし、質問もしなかった”

 

ということを著者は本の中で伝えています

 

 

Norman Maclean


ここから想像力を拡げていきます

 

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単に弟だけの問題であったなら兄は人生を通し

弟の死について見つめ続ける必要はなかった

 

実は弟に関する問いは、兄ノーマンにとっても

共有するテーマであり、同時に自分の父親も

その問いに関連していたのではないか

 

つまり

マクリーン家にとって共通した「業」だった

 

そのためノーマンは弟の死について、常に自分

の人生にも「何か」引っかかりを感じていた

 

 

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ではその「何か」とは?

 

 

ありのままの自分であること

 

 

ではないか

 

 



人は「
ありのままの自分ではなく

なりたい自分を求めて生きている

 

「こうありたい、こうあらねば」

という理想の自分、つまり

未来の自分」をいつも探している

 

だから、今ここに立っている「現在の自分」

というのが見えていない

 

 

 

Here in body, but not in spirit

  

 マクリーン家の男はみんなこだわりを、

そして自分を捨てきれていない

 

Tension between who he wants to be and who he is

 

 

ポールは「あるべき自分」を保つために

亡くなるまで家族に助けを求めなかった

 

父は次男ポールの死の真相について

「父自身が解るポール・マクリーン像

を長男ノーマンに語るように期待し

 

ノーマンは「良い人間」ゆえに

「世間に期待されるノーマン・マクリーン」

として振る舞い、人生を生きてきた

 

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虚心坦懐

 

 

ポールの死を通して

ノーマンが最も見つめていたことは

家族愛や兄弟の絆ではなく

  

こだわりを捨てること

 

そして

 

現在の自分を受け入れること

 

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そう伝えている気がします

 

 

 

A River Runs Through It

川という存在はそれを通り抜ける

 

 

  川は過去から、あなたのいま居る場所 ( It )

通過し、そして未来へと

時を刻みながら流れ続ける 

 

今立っているところが本当のあなただ」

 

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若い頃から老境に至っても、ノーマンはフライ

フィッシング通じた自然の中で、「今」と

いう時間に「永遠の一瞬」を感じ続けています

 

 

そして作品の最後にこの物語は、

このような形で締め括られています

 

 

I am haunted by Waters

もなお私は、水の世界にとり憑かれている